長谷川孝幸氏インタビュー#1「ウィズコロナで変わるプレゼン」

■プレゼンの上達で「空気を読む力」も身につく

――プレゼンスキルを身につけることによって、副次的に向上するスキルがあれば教えてください。

これは「思いやり」と「サービスマインド」が上がります。
テクニカルなスキルとはひとまず置いて、プレゼンをきちんとやろうとすると、相手の願いを真に汲み取ろうとします。その工夫をしますから、元々は思いやりがなくても、思いやりの精神を発揮しなければ良いスクリプト(台本)ができませんので、自然と「先様に喜んでいただこう」という心がけができるようになっていきます。論理的技術というのは、あとからついてくるでしょう。

さらに上達すると、私もまだその領域にはいっていませんけれども「空気を読む力」も伸びてくると思います。これは日頃のコミュニケーションでも大事なことで、よく「負け信号・買い信号」なんて言いますけど、お客さんが買う気になっていればハンコを押すよう促せばよいのに、それでもまだ商品説明をしているなんて、ちょっとおかしい。丁寧過ぎる営業員はこんなことをやって、結局相手のテンションを下げてしまい、お客様は買う気を失くしてしまうこともあるのです。

――「空気が読める」というのは、相手のリアクションが読み取りやすくなるということでしょうか?

相手の反応を見ながら話すとか、反応に合わせて話すということを、意識していない人が意外と多いわけです。プレゼンの現場では反応を見ながら話しますから、自然と空気を感じ取ろうとする力が伸びると思います。「空気を読む」とは、場慣れしていないとできません。

プレゼンとかスピーチが巧いのは実はスピーカーよりも、結婚式場の売れっ子の専属の司会者の方なんかは非常に巧いといつも思います。「時間を読む」とか「場を読む」とか「この人にはこれを言ったらダメ」とか、すごく読み取ります。こういった人はおそらく外した経験もいっぱいしてきたのでしょう。経験を積んで場に合わせた話し方が身についたのだと思います。

■今までのやり方ではなくても伝達はできる

――世の中はウィズコロナ時代で人との接触が厳しくなりました。緊急事態宣言が発令された当時、長谷川さんのお仕事にはどんな影響がありましたか?

何しろ人前で話す機会がなくなってしまいました。5月の売上が9,979円ですから。このまま自分は喋り方を忘れてしまうのではないかと、真剣に不安になりました。
今はお陰さまでコロナ前の8割ほどに戻ってきまして、リモートで話す機会が増えました。

私はなにしろマイクを持って「はい! では後ろから二番目の方どうぞ!」なんて言って、会場中を走り回ることをずっとやってきた人ですから、オンラインになりガラッとスタイルが変わりました。まだ試行錯誤中ですけれど、私はリアルでやってきたこともあり、「そうでなければいけない」という思い込みも正直ありましたが、そうでもないということがわかりました。

良いビデオ教材をしっかり観て、よく編集された本をしっかり読んで勉強する、というのが私は一番頭に入ると思っていますので、「本当に話を聴いてもらう」ためには、もっとパフォーマンスを出さなきゃいけないという思い込みがありました。そうでもない。きちんと喋ればけっこう伝わるんだ、ということが割とわかったのが、コロナ禍での発見でした。今さらながらでしたけれども。
極端なことを言えば、「はい皆さん! こんにち……ばぁ!!」くらいの出オチやインパクト重視で勢いでやっていたこともありましたので、そうでなくてもいけるということがわかったんですね。

今までのやり方を否定するわけではありませんが、営業さんなんかもそうだと思います。令和2年の時点で未だにですね、「やっぱり足で稼がなきゃ商売になりませんよ」などと言っている人もいますが、出向かなくても伝わるとか、今までのやり方でなくても伝達はできる、ということは意識してほしいところです。

――今は営業するにも、「はじめまして」もオンラインが当たり前になってきましたよね。

「オンライン名刺」もありますよね。こうなる前から「はじめまして」の前に、お互いホームページとかで会社の状況とか相手の役職とか、組織における位置付けなんていうのはだいたい調べてきて、商品構成くらいは見といてから訪問しますからね。「名刺は第一歩です」なんて言うのは、おかしいのかもしれません。

――長谷川さんご自身は、コロナ前にもオンラインプレゼンを経験されていましたか?

いわゆるテレビ会議みたいなもので、地方の工場とかを繋いで行うケースは何回かありましたが、昨今のようなオンライン研修の類は一度たりともありませんでした。いつかやる日は来るだろうとは思っていましたけども、これほど近々に迫られてやる日が来るとは思っていませんでしたね。リアルの場でもオンラインの場でも、どちらでも対応できないと、これからは職業話者だけでなくビジネスパーソンはしんどいですよ。

■オンラインだからやりにくいは「言い訳」

――リアルではなくオンラインで行うプレゼンの良い点、悪い点はそれぞれどんなことがありますか?

現時点で言えることですが、一部の人を除き、受配信のスキルも環境も十分ではないという人が多くいますので、目の前の人に話すとか目の前で人の話を聴くというのが、リアルの場面よりもやりにくいという現状があると思います。
逆に言えば、オンラインの不都合はそれだけです。オンラインだからやりにくいとか、何でもそれを言い訳にしてしまうのは違うと思うんですね。確かに受配信のやりとり、操作のスキル、配信環境のスペックによって快適さに差が出ることはありますが。

私はゴツいヘッドセットを使っていますが、自宅から配信していると、家のすぐそばがバス通りで、大きい病院が近くにあるので救急車も通ったりして、これでないと音が気になってしまい、仕方がないので付けていますけど。それ以外の不都合はない。あるとしたら思い込みです。

リアルでもオンラインでも「コンテンツの設計」と「パフォーマンス」が十分できるかどうかが問題で、リアルだから問題、オンラインだから問題ではないと思います。設計とパフォーマンスの問題であって、場を言い訳にしてはいけない。
私は芝居を観に行くのが好きですから、「生の舞台のよさ」は承知しています。ではテレビやネットのドラマがつまらないのか。そんなことはないと思います。映像作品はコンテンツがしっかりしていれば映像作品なりの面白さもあるわけで、プレゼンやセミナー、研修ではコンテンツの設計がかっちりできればいいのです。
むしろその分、操作技術を高めるとか、日頃から相手とのコミュニケーションを取っておくとか、そちらの方向に注力するべきであって、「あの~やっぱり対面じゃないと誠意が通じませんから、話しに行かせてください」といったお願いに力を注ぐのは、ちょっと違うのではないかっていう気がします。