長谷川孝幸氏インタビュー#2「ササるプレゼンの技術」
■すべて伝えるのではなく削る
――プレゼンの本場中での聴き手への「伝え方」について、工夫していることがあれば教えてください。
これは「思いやり」と「サービスマインド」が上がります。
テクニカルなスキルとはひとまず置いて、プレゼンをきちんとやろうとすると、相手の願いを真に汲み取ろうとします。その工夫をしますから、元々は思いやりがなくても、思いやりの精神を発揮しなければ良いスクリプト(台本)ができませんので、自然と「先様に喜んでいただこう」という心がけができるようになっていきます。論理的技術というのは、あとからついてくるでしょう。
さらに上達すると、私もまだその領域にはいっていませんけれども「空気を読む力」も伸びてくると思います。これは日頃のコミュニケーションでも大事なことで、よく「負け信号・買い信号」なんて言いますけど、お客さんが買う気になっていればハンコを押すよう促せばよいのに、それでもまだ商品説明をしているなんて、ちょっとおかしい。丁寧過ぎる営業員はこんなことをやって、結局相手のテンションを下げてしまい、お客様は買う気を失くしてしまうこともあるのです。
――「空気が読める」というのは、相手のリアクションが読み取りやすくなるということでしょうか?
本書(※)にも書いていますけど、3か5を意識して作ることを徹底しています。
特にオンラインの場合は、この人が何個話をするのか、どのくらいの時間をかけて、どういう内容の話をするのか、といったことを聴き手がモヤモヤしていると頭に入ってきにくくなりますから、「今から3点話します。あと10分くらい経ったら休憩を入れますから、この3つだけまず話をしちゃいますね」というように伝えてしまう。とにかく終わりを見せるということ。
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ところがですね、慣れていない人は10のうち10話そうとする。10個中10を伝えようとする。だから無理やり押し込めようとしたり、あるいは伝えきれないとオロオロしてしまう。「本当に肝心なことは10のうち10なの? 1か2なんじゃないの? せいぜい3なんじゃないの?」ということですね。
私なんか若い頃からずっと10のうち25くらい喋ろうとしていましたから(笑)
結局それが講師の勝ち負けの基準っていうのもあったんですよ。皆10を10当たり前に言うけど、この人は25まで喋るという。要するに一言多いというより三言四言多いくらい、そういう人であろうとし続けていた時期がありました。
それはいけないなとは前から思っていましたが、コロナでオンライン化され、3か5というのを特に意識するようになりましたね。
――心配からきてしまうのかもしれませんが、内容を詰め込みすぎてしまう人は結構いそうな気がします。
自分の評価が下がることへの心配があるかと思います。要するに「この人は薄い話しかできない人」だとか「この人はそんなにモノを知っていない人」だとか「ヘタクソが一生懸命やっているな」というような、周りからそう思われるのが嫌だということですね。
私もそれはあるのですが、正直言ってこういう仕事をしていますと、上を見るとキリがありません。上手な人はいっぱいいますから。
名人上手と同じ土俵に立つということは、あまり意味のないことですので、すべて伝えるのではなく削ると。極端に言えば「これ美味しいんです! 一度買ってごらんなさい、美味しいから!」それで良いのです。そのくらいで話が通るようにしたほうが良いと思いますね。
――商品販売や大きな講演などでも「今日これだけ覚えて帰ってください!」というキーワードがよくでてきますが、あれはやはり有効だということでしょうか。
私も6時間セミナーとかですと、最初の7分以内にそれを言っちゃうんです。
「今日はこれだけ覚えておいて、あとは全部おまけですから。この最初のキーワードだけ意識してください。これ書きましたね。あとはおまけですから、ただただ聴いてください」と言ってしまいます。
オンラインの場合は特にそうですね。リアルの場合では、目の間で急に人がバタンと倒れるといったアクシデントがない限りは、話が途切れることはありませんけど、オンラインの場合はこの瞬間に接続が途切れるかもしれないということがありますから。今言っておかないと、というものはスパッと言わないといけない。結局はスパッと数分程度で言えるものを1つ用意して、それを軸にし、最終的には3つか5つでまとめることを、意識しないといけないということです。
――それは同時に、聴いてくれている人たちへ飽きさせない工夫にもつながっていそうですね。
プレゼンでも研修でも同じですけど、最後まで飽きさせないためにはどうするかといったら、最後までオチを持ってこないというのが昔のやり方だったのです。推理小説みたいに。
結論を先に持ってくるように組み立てるのですから、これまでのやり方とは逆になってきていますね、そういう意味では。最後の3分くらいまで結論を持ってこないというのは割と聞かせるスピーカーだったんですけど、それは通じませんよと。そういうものを聴いて、「プロってこういうふうにやるのね」ともし思っている人がいたら、そのマインドブロックは外してくださいということですよね。
■プレゼンスキル向上のための勉強法
――「結論を先に」とは、話す場合でもプレゼンの場合でも同様なのですね。プレゼンスキル向上のための良い勉強法を教えてください。
短いセミナーでも勉強会でも良いので、上手な人の講演やプレゼンを見聞きすることですね。どんなに本を読んでも何をしても、イメージができないものっていうのは再現できません。ですから上手な人を参考にするのです。上手な人というのがまだよくわからないという場合は、売れている人あるいはSNSで話題になっている人で、それほど高くないセミナーを狙います。
数十万円のセミナーもありますけども、それはその人が話すというだけで高いっていう話で。出てくるっていうだけで価値がある人のセミナーはあまり意味がなかったりしますから、SNSとかで評判になっている人で高くないセミナーというのが、割と当たりが多いです。
そして真似できるところは真似をする。あるいは参考にすべきところは参考にする。すべて真似をしなくても良いですから。これが一番有効な勉強方法です。
――話し方などを観察してみるといったことでしょうか?
クリティカルシンキングなのかわかりませんけども、この人が嫌じゃない、聴いていて苦にならないのは何故だろう? というように見ると勉強になりますね。この人が何故上手なんだろうというよりも、この人は何故下手ではないのだろう、といった視点で見ると、より参考になることが多いと思います。
――今ですとYouTubeなど気軽に見られるものの中にも、プレゼンが上手い人がかなりいますね。
YouTubeでやっぱり上手だと思うのは、オリエンタルラジオの中田敦彦さんですね。
堀江貴文さんやマコなり社長もいますけども、あの方たちはキャラクターが既に確立していますから、真似してインパクト重視でやると、不慣れな人は炎上するだけなので注意が必要です。人が離れていって終わりになってしまいます。
――インパクト重視でやったりウケを狙いにいったりと、まだ経験が浅いからこそやってしまいがちそうですが、真似するまでには、それなりの経験や実績がないと難しそうですね……逆にあまり効果的ではない勉強法もあれば、お聞きしたいです。
明らかに下手くそな話を聞くというのも勉強になります。欠点を見つけやすくなります。
私も評判悪い人をですね、覚悟して年に1回か2回はお金を払って見に行くんです。すると「あぁこの人はだから下手なんだ!」と……悪いんですけどね、明らかに下手だっていうのは見つかるんですよ。
ただしこれは私が自分でやっているから良いのですが、まだプレゼン慣れしていない人が下手なプレゼンを参考にしようとすると、染まってしまうおそれがあります。ですから、割と経験を積んでいる、あるいは自分で修正ができる人だったら良いですけど、そうでない人は、下手くそは見ないほうが良いでしょう。
「下手くそ」という言い方は語弊があるかもしれませんので、良いものだけを見るようにしたほうが効果的ということです。何でも経験だからと色々なものを見ようとして、上手かどうかわからないものを見るというのは、効果的ではありません。
芸術でも音楽でもそうで、審美眼が確立するまでは良いものを見たほうがいいなんてこともありますけども。明らかに皆から評価されているものに絞って見たほうが良いでしょう。
■ぶっちゃけられる人は上手い話し手
――長谷川さんから見て上手いと思う話し手はどんな方でしょうか。また、どのあたりが上手いと感じるのかも教えてください。
7年前くらいでしょうか。選挙で自民党が野党の時です。当時新潟、甲府、岡山へたまたま行ったのですが、偶然3回とも小泉進次郎さんの街頭演説を見て、3回見て3回とも泣いちゃったのです。
何が上手かというと、自分のさらけ出し具合が良いですね。ぶっちゃけ具合ともいえますが、これができる人が上手なのではないかなと思います。
「私って本当にダメな人で……」というように、ただ卑下すると単に自意識過剰な人に見えてしまいます。あれだけの人にはならないかもしれないけども、それぞれがそれぞれの立場によって、自分の役職等級とか年齢とか立場に応じた仕事が割と高水準にできるような人が、「そうは言っても……」っていうように、ある程度ぶっちゃけられるっていうのは、おそらく話し上手なんじゃないかと。
これは小手先のことではなくて生き方まで入ってきますが、上手いと思える人の共通点は、そういうところがあったかと思います。ぶっちゃけ=「自己提示」ですかね。自己提示の調整ができる人ということです。