ササるプレゼンの技術
これまで延べ5万人以上に直接指導してきた長谷川孝幸さん。インタビュー前編ではプロの講師になるまでのご苦労などもお伺いしましたが、後編では、本番中に失敗しないために意識していることや、時間配分の確認方法、プレゼンの「テーマの作り方」など、実践に役立つポイントについてお話を伺いました。

■本番中に失敗しない対策

――長谷川さんがプレゼンを行う際、失敗しないための準備として意識していることはありますか?

「落としどころを明確にする」ことですね。落としどころというと逃げみたいに聞こえてしまうかもしれませんが、要は最終結論。これを明確にする。
落としどころがイメージできていれば、本筋から外れることはまずないです。
ところがどんなに論理構築しても最終的な落としどころ、あるいは最後に「ご苦労様でした! ありがとうございます!」と先方がよろこんで言ってくれる、そこまでイメージできていない場合は、どこかで迷ったりオロオロしたりしてしまいますので、何しろ落としどころを決めてそこから逆算するようにしています。「プレゼンの成功を具体的にイメージする」という言い方もできますね。

――本番に挑む前に成功しているイメージを持つことで、緊張よりもワクワクしてきそうです! プレゼンで話す内容の時間配分などは、どう考えておくとよいのでしょうか。

30分でも2時間でも6時間(話す場合)でもそうですが、必ず標準工程を想定しています。何分でこの話までいく、この話には何分かける、という標準工程を想定していますので、大幅にずれた場合には、自分が喋りすぎているか、あるいは焦っているかのどっちかなのです。

「あれ? もうこの時間? これが言えていないってことは、あそこで喋りすぎたかな」とか、「あれ? 少し進みが早いと雑に流しちゃったかな」というように、時間から逆算して修正していきます。
さらに言えば、想定進行時間で話せるように練習しておくという前提がありますけれども、これができていれば自分の出来不出来が、時間を目安にその場ですぐ修正できるということです。

――話し手が「あれ? 今ちょっと脱線しかかったぞ」とか、「だいぶ脱線してきたな、どうやって戻ろうか」みたいなことを本番中に悩むことがあると思いますが、そういった時の対処はどうすればよいでしょうか?

「この脱線は2分で済む」「この脱線をすると7分かかる」というように、脱線の所要時間も想定しておけるといいですね。
「これを脱線しちゃうと7~8分ロスしちゃうから、休憩1回ずれちゃうな」というような見当ができると安心します。
「これを脱線しても2分で収まる」とか、「ここで脱線しといても次でまた拾えるからいいわ」というようなところは、これもやはり時間で見ます。
1つひとつの脱線は、およその所要時間が見えています。それを考えないで話すと落としどころがわからなくなって、脱線したまんま「私、何を言ってたんでしたっけ?」ということになりかねない。迷い込んでしまっても軌道修正できる人でしたらいいのですが、迷い込んだままその自分に迷ってしまうと、オロオロしちゃう人は困ってしまいますね。

――迷ってしまうと慌ててしまい、軌道修正するのも難しくなってしまいそうですね……。

「慌てるな!」なんて言っても無理なんです。泣いている子に「泣くな」と言っているのと一緒ですから。でもその時に時計を確認して、だいたいずれていないなという目安があれば安心かと思います。
疲れている時は話が回りくどくなっちゃうのか、私も無駄に時間がかかってしまう時があります。逆に焦っている時は早くなってしまうこともありますので、やっぱりまず時計を見るのと、基本となる話題は何分何秒でというような感覚をつかんでおくと良いでしょう。

■時間の確認方法

――長谷川さんは本番中にストップウォッチを持たれていますが、タイマーを使う方もいるそうですね。

私はストップウォッチ派なのですが、元はメーカーの人間でしたから、あらゆる作業をタイマーで測りながらやるように育てられたので、その経験が活かせてありがたかったですね。
研修講師の中でも7割くらいがタイマー派でしょうか。これはコンテンツを作る側の事情として、タイマーで見るんですね。何分でこれを収めたいと目算を立てて何分以内に話すというやり方には、タイマーが合うのです。
私は「この話に何分かかるから次をこのように構築する」という考え方ですので、ストップウォッチを使っています。これは好き嫌いもありますが。

ただ比較的話が長くなってしまう人、ダラダラと話してしまうタイプの人は、タイマーで測ると良いのです。そうすると、いわゆるケツが決まる状態になりますから、それ以内に収めようとしますので、自然と巻く(収めようとする)のです。

話が散らかりがちな人は、ストップウォッチで測ったほうが良いでしょう。そうすると話の進み具合など展開ごとにどれくらいかかっているのか、という所要時間の感覚が見えます。 スケジュールを見た時は「あ! もうこの時間だから、あと15分で一旦休憩を入れて」というように時計も見ないといけませんので、時計+タイマーもしくは時計+ストップウォッチの両方を確認します。最悪時計だけでも、秒針までは見られませんが分単位は見られますので、確認すると良いでしょう。

――独学の本なんかでよくいわれているのは、この教科を何時までに何分でというように、自習の際も時間割を作って勉強するというのがありますね。休憩時間までカッチリしたほうが身に入りやすいみたいなことがあるのですが、これはプレゼンでの話し手と聴き手も同じと思ってよいのでしょうか。

聴く側は特にそうですね。
例えば「17時までで」と言っているのに、17時15分くらいまでまだ喋っているような人がいますね。
「今日は皆さんよく聞いて下さるんで、サービスでいっぱい喋っています!」……サービスじゃない! そんなものは。皆さんですね、色々と都合をつけて参加しているわけです。
特にオンラインになりますと、例えば17時までAのセミナー、そのあとZoomに切り替えて17時からBのセミナー、ってこともできるわけです。結構皆さん予定を詰めてくる人が増えてきています。オンラインだからこそ「時間内」に収めないと、聴いている側からするとストレスです。

「ちょっとごめんなさい」などと席を外せないですね、オンラインってなかなか。ですから休憩もマメに取らないといけません。私も今までは3時間くらいのセミナーですと、1回休憩を入れるだけだったのですが、オンラインの時は40分に1回、7分以上の休憩を入れます。これはオンラインだとしても(新型コロナウイルスへの対応を踏まえ)今いる部屋の換気をしましょう、うがいをしましょうということ。
それから電波の受信状態が悪い場合など、ビクビクしながら聴いている人もいますよね。一旦その間にカメラとマイクは落としましょうと。場合によっては再起動してくださいと。

そうなってくると、これまで(リアルの場)よりも15%はいかないけども、10%ちょっと内容を削る必要があります。長丁場のセミナーとかですと、こういう組み方にも慣れていかないといけません。より時間配分に注意をしなくてはいけないのです。
話し手は相手の時間などをもらっているわけですから、きちんと話して当たり前です。 リアルでもオンラインでもそれぞれに色々な事情がありますので、聴き手のストレスになるのは時間通りに終わらないこと。あるいは、いつ終わるかわからないこと。リアルの会議だってそうじゃありませんか。「うちの会社ってさ、終わるまでやるよね」「じゃあ何時?」というように見えないもの。何時まで我慢すればいいかわからないものはモヤモヤします。

■本番後の点検よりも事前準備を

――確かに時間通りに終わらないとモヤモヤしますね。私も先日参加したオンラインセミナーで、予定より終了が30分以上も押していて気になりました……。本番中の時間配分には十分に注意をするとして、それでは本番後の点検などはどうでしょうか?

本番中では時間を見ますけども、終わった後ということになりますと、最近は研修なんかの場合には、聴講者がちゃんとキーワードを拾っているかどうかをアンケートなどでいっそう細かくヒアリングするようになりました。ただ本番後にフォローするのは難しいので、途中途中の投げかけを増やすことが、割と増えてきたように思います。

心構えとして考えた時にですね、リアルであればそこに行って、オンラインであれば相手と接続できていれば、最悪それでもOKというぐらいまで支度をしておく、ということが大事なのです。
成功した・していないといった時にですね、上手に話せたかとか、あるいはスライドがきちんと投影できたかとか、音声が大丈夫だったかというような、伝達する内容そのものじゃないことを心配する人が多いんです。
ですけど事前にある程度準備ができていれば、「あっ、ごめんなさい。プロジェクター調子が悪いんです」「あっ、ちょっとなんだろう。画面共有できないです」なんてことが起きても、「じゃあいいです。喋っちゃいます」と言って対応できるくらいにまで、練習と準備をしなくてはいけないということなんですね。
本番間際まで資料作成をしているとか、美しいスライドを作るために注力をしていて読み込みをしていないとか、ストーリーが頭に入っていない人というのは、そうなった時に次回検証もできませんし、そもそもその場で立ちすくんで終わってしまう。
ですから本番後の点検よりも「最悪マイクさえあれば」、さらに言えば「マイクがなくても大丈夫」というくらいにまで、事前にお稽古をしといてほしいところです。